核酸医薬品の多くはmRNAなどの核酸配列に対して相補的に複合体を形成することによって機能を発揮します。それとは異なり、タグシクス・バイオでは核酸が特定の三次元構造を取り、その形が低分子やタンパク質に結合する性質を利用する創薬を目指しています。
タグシクス・バイオが開発した人工塩基を含み、多様な構造を取る特殊DNAライブラリ―から、SELEXと呼ばれる手法を用いて疾患の原因となる標的分子にのみ選択的に強い親和性を有する分子を単離した後、独自技術で安定化と最適化を行い、医薬品としての候補物質Xenoligo®を創製します。Xenoligo®は、従来の低分子医薬品や抗体医薬よりも高特異性・高親和性で標的分子に結合するため、次世代の医薬品となることが期待されています。また、Xenoligo®は、化学合成で製造されるため安価で、品質管理された安定的な供給が可能です。タグシクスは自社開発と同時に、国内外の製薬企業との共同開発提携により、高機能性の核酸医薬品の創出を目指して事業を展開します。
天然のAとT、GとCの塩基対と同等の精度でPCR増幅が可能な第3のDNA塩基対開発の成功により、人工塩基対技術の実用化が可能になりました。タグシクス・バイオでは試験管内選択法を用いて、標的物質に高親和力で結合する新規塩基を含む核酸分子Xenoligo®の作製技術を確立しました。この手法を用いれば、創薬探索を効率的に行えます。
XenoligoTMの創出には、初めに新規塩基を含む特殊DNAのライブラリ(1014~1015分子)を準備します。そのライブラリの中から疾患の原因となる標的物質などに選択的に強く結合する分子を、選択します。結合アッセイによる選択とPCR増幅のサイクルを複数回繰り返すことにより、最終的に結合力の高い分子を選択できます。その後、短鎖化した上でhairpin DNAを付加し、さらに一部の塩基配列の置換をすると、血清中においても数日間は安定なXenoligo®が完成します。従来の核酸アプタマーが直面してきた、安定化のための塩基修飾による標的分子との結合力の低下や、それに伴うコスト高などの問題点もこの技術で克服しました。Xenoligo®は、DNAを構成成分とするため安価に製造ができ、化学合成で製造するため徹底した品質管理も容易です。これまでの医薬品の主役であった低分子と高分子の抗体医薬に続く、新規モダリティとして期待されている中分子医薬の担い手の一つであり、次世代型の核酸医薬品の提供が可能になりました。
<基盤となる技術>
遺伝子の本体であるDNAは、4種類の塩基(アデニン(A), グアニン(G), シトシン(C), チミン(T))からなる構成成分で作られる生体高分子です。これらの塩基はAとT、GとCがそれぞれ塩基対を作ることにより、DNAは二重らせん構造を形成しており、A-T, G-Cの2種類の塩基対の相補性が基本法則となって遺伝情報伝達(複製・転写・翻訳)の仕組みが成り立っています。この生物の仕組みを人工的に利用したのが遺伝子組換え技術であり、これによりバイオテクノロジーが急速に発展してきました。そして、その後の技術革新により、機能性の核酸やたんぱく質を作り出すことができるようになってきていますが、そのひとつが、新規の塩基対による遺伝情報の拡張技術です。
DNAは、これまでは遺伝情報を蓄積した鋳型分子として用いられることが多く、機能性の分子としての認識は低かったのですが、現在は新たに作り出した塩基対(X-Y)をDNA中に導入することが可能になり、遺伝情報の拡張とともに、その高機能化が可能になってきました。この基盤技術は、タグシクス・バイオの創業者である平尾一郎氏(現在、Institute of Bioengineering and Nanotechnology, Singapore)らが、理化学研究所等を研究の拠点として開発し、2007年以降は、タグシクス・バイオとの共同で事業化に向けた研究開発を続けてきたものです。このプラットフォームの技術を基盤として、タグシクス・バイオでは、Xenoligo®の創薬事業にフォーカスを当てて事業化を進めています。