人工塩基対/Ds-Px
創業者の平尾一郎博士が長年にわたり開発した人工塩基対 Ds-Pxは、DNAポリメラーゼによるPCRによるDNAの増幅およびRNAポリメラーゼによるRNAへの転写が可能となる塩基対である。
A-T, G-C塩基対は水素結合によって塩基対を形成する。一方、Ds-Px塩基対はそれぞれの塩基の形が嚙み合うことで塩基対を形成することが出来る。また、DsとPxが他の塩基と塩基対を作らないため、1. 水素結合を形成する官能基を無くす、2. 立体障害を起こさせるための官能基を組みこむなどの工夫を施している。
Ref. RIKEN NEWS 2013年8月号
Ref. Futami K. et al. Mol. Ther. Nucleic Acids (2019) p158-170
人工塩基対を用いたSELEX
人工塩基対をセレクションに用いたことによるメリット
① ライブラリーの優位性
DNAライブラリーには人工塩基Dsのみを組み込ませている。塩基対を形成する人工塩基Pxが存在しないことで、Dsは塩基対が形成することが出来ず、ステム構造に関わることが不可能となる。よって、Dsはバルジアウト構造、インターナルループ構造など一本鎖領域に存在することになり、多様な構造を形成することが可能となる。
② 機能の優位性
疎水性の高いDsが加わることで、標的分子との結合に新たな相互作用が加わることになる。疎水性の塩基部分がプリン塩基A,Tに比べ大きく、更にリボース部位からも離れている。このような形をしていることから、天然塩基では届きづらい疎水性アミノ酸からなるポケット部位とも相互作用することが可能となる。Dsをアデノシン(A)に置換したオリゴを用いた結合試験によって、標的タンパク質に対しての結合親和性が低下することを確認しており、Dsの疎水性という特徴によって標的タンパク質と結合していることが示唆されている。
➂ セレクションの優位性
スクリーニングで回収した結合配列をPCR法によって増幅する必要がある。反応液中にDsの相補塩基であるPxのリン酸化ヌクレオシドを加えることで、Dsが挿入されたオリゴを増幅することが可能となった。